最新2021年版グローバル・イノベーション・インデックスについて解説します
グローバル・イノベーション・インデックス(GII)とは、世界知的所有権機関(WIPO)が発表する世界132の国と地域のイノベーション能力を分析・評価したランキングです。GIIの評価項目は合計7つのサブインデックスから構成されます。
本記事では、7つのサブインデックスの解説と、国別総合ランキングの上位5カ国をご紹介します。
目次
グローバル・イノベーション・インデックスとは
グローバル・イノベーション・インデックス(GII)とは、世界知的所有権機関(WIPO)が発表する世界132の国と地域のイノベーション能力を分析・評価したランキングです。
GIIの評価項目は、イノベーション・インプットとイノベーション・アウトプットの2つに大別されます。さらに、イノベーション・インプットは5つ、イノベーション・アウトプットは2つのサブインデックスに分かれています。以下に、合計7つのサブインデックスを表示します。
イノベーション・インプット
- Institutions(制度)
- Human capital & research(人材と研究)
- Infrastructure(インフラ)
- Market sophistication(市場の洗練度)
- Business sophistication(事業の洗練度)
イノベーション・アウトプット
- Knowledge & technology outputs(知識と技術の産出)
- Creative outputs(創造的なアウトプット)
出典:Global Innovation Index 2021
1. 制度
制度は、政治的環境・規制環境・ビジネス環境の3つの指標により構成されています。
政治的環境は、事業活動に影響を与える政治的、法的、業務的、またはセキュリティ上のリスク、公共・市民サービスの質、政治からの独立度、政策の策定と実施の質などを評価しています。
規制環境には、民間セクターの発展を促進する政策の策定・実施する政府の能力や、警察機関などによる法の規制、余剰人員の解雇におけるコストなどの項目が含まれます。
ビジネス環境では、「起業のしやすさ」と「債務超過手続きのしやすさ」を用いて、起業活動への直接的な影響を評価しています。
2. 人材と研究
人材と研究は、教育全般、高等教育、研究開発に分けられています。
まず、教育全般は、教育支出の割合や、中等教育における政府資金、教育を受ける年数、OECDのPISA(Programme for International Student Assessment)による15歳の生徒の読解力・数学・科学の成績、生徒と教師の比率によって測られます。
次に、高等教育は、高等教育への入学者数やSTEM分野の卒業生の割合、高等教育レベルの留学生の割合などが指標とされています。
研究開発は、研究者数、総支出額、その国のトップグローバル企業の研究開発費、QS世界大学ランキングの上位3校の平均スコアなどの指標で評価されます。
3. インフラ
インフラは、ICT(情報通信技術)インフラ・一般的インフラ・環境持続性の3つにより構成されています。
ICTインフラでは、ICTへのアクセス・利用率や、政府によるオンラインサービス・市民のオンライン参加などが評価されています。
一般的インフラには、発電量、物流パフォーマンス、総資本形成の項目が含まれます。
環境持続性では、エネルギー使用量あたりのGDP、環境パフォーマンス指数、環境マネジメントシステムの規格であるISO14001の適合証明書の発行数が評価対象となります。
4. 市場の洗練度
市場の洗練度は、信用・投資、貿易・多様化・市場規模の指標により評価されています。
信用は、信用獲得の容易性や、国内の民間企業向け融資、マイクロファイナンスの総貸付額によって評価されます。
投資は、少数投資家保護の容易さや、国内上場企業の時価総額、ベンチャーキャピタル取引数などを元に算定されました。
貿易・多様化・市場規模では、全製品の加重平均適用関税率、国内産業の多様化、国内市場規模などが評価されています。
5. 事業の洗練度
事業の洗練度には、知識労働者、イノベーションの関連性、知識の吸収の3つの指標があります。
知識労働者の指標では、知識集約型サービスにおける雇用、正式な研修を提供する企業、研究開発の総支出額のうち企業が資金提供した割合、総雇用者数において上級学位を取得している女性の割合が評価対象となります。
イノベーションの関連性には、研究開発における企業と大学の協力関係、企業やサプライヤー・生産者・専門機関などが地理的に集中したクラスターの発達状況、研究開発費に占める海外からの資金調達の割合、ジョイントベンチャーや戦略的提携の件数、対応特許の数などが含まれています。
知識の吸収では、貿易総額における知的財産権支払いの割合、貿易総額に占めるハイテク製品の輸入額の割合 、貿易総額に占めるICTサービスの輸入額の割合、GDPに占める直接海外投資の純流入額、企業内研究者の割合などを評価します。
6. 知識と技術の産出
知識と技術の産出には、知識の創造、知識の影響力知識の普及の3つがありいます。
知識の創造では、発明や革新的な活動の結果として、居住者による国内特許申請数、居住者による特許協力条約に基づく特許出願数、居住者の実用新案出願数、学術雑誌に掲載された科学技術論文数、H-indexによる研究論文の生産性と影響力などが評価されています。
知識の影響力には、雇用者一人あたりのGDP成長率、新規事業密度、コンピュータソフトウェアの総支出額、ISO 9001(品質マネジメントシステム規格)の認証数、全製造業生産高に占めるハイテク製造業の割合などが含まれます。
知識の普及は、貿易総額における知的財産権の使用料の割合、経済複雑性指標、貿易総額におけるハイテク製品の輸出額の割合、貿易総額におけるICTサービスの輸出額の割合で評価されています。
7. 創造的なアウトプット
創造的なアウトプットでは、無形資産、創造的な商品とサービス、オンライン・クリエイティビティの3つを評価しています。
無形資産は、居住者による商標登録区分数、上位5,000ブランドの世界的ブランド価値、居住者による工業デザインの数、ICTが新しい組織モデルをどの程度可能にするか、などによって評価されました。
創造的な商品とサービスでは、輸出総額に占めるクリエイティブ・サービスの輸出の割合、国内で制作された長編映画の本数、世界におけるエンターテインメント&メディア市場、製造業総生産に占める印刷およびその他メディアの生産量、貿易総額に占める創造的商品の輸出額の割合などを測定しています。
オンラインでのクリエイティビティには、分野別トップレベルドメイン、国別コードトップレベルドメイン、ウィキペディアの年間平均編集回数、世界におけるモバイルアプリのダウンロード回数の4つの指標が含まれています。
国別総合ランキング
ここでは、2021年9月に発表されたグローバル・イノベーション・インデックス 2021での総合ランキングを一部ご紹介します。
1位:スイス
スイスは11年連続で首位に選ばれています。7つのサブインデックスのうち、「知識と技術の産出」が1位、「インフラ」および「創造的なアウトプット」が2位、「事業の洗練度」が4位と、幅広い項目で高順位を獲得しています。
スイスの成功の要因として、知的財産関連の法整備の充実や、研究開発への大きな投資などが挙げられ、膨大な特許を取得している点も注目されます。
サブインデックス別ランキング
- 制度:13位
- 人材と研究:6位
- インフラ:2位
- 市場の洗練度:6位
- 事業の洗練度:4位
- 知識と技術の産出:1位
- 創造的なアウトプット:2位
スイスのスタートアップリスト「Switzerland 100」
2位:スウェーデン
スウェーデンも毎年上位にランクインしている国です。7つの項目のうち「事業の洗練度」が1位、「知識と技術の産出」および「人材と研究」が2位、「インフラ」が3位となっています。首位のスイス同様、多くの項目で高評価を得ました。
スウェーデンにはイノベーション・システム庁があり、国を挙げてイノベーションに力を入れています。また、充実した福祉国家としても有名で、起業に失敗しても生活や子どもの養育に困ることがないセーフティネットの存在も、イノベーションを促進していると考えられています。
サブインデックス別ランキング
- 制度:9位
- 人材と研究:2位
- インフラ:3位
- 市場の洗練度:11位
- 事業の洗練度:1位
- 知識と技術の産出:2位
- 創造的なアウトプット:5位
3位:アメリカ
シリコンバレーを有し、イノベーション大国として有名なアメリカは3位になりました。7つの項目のうち「市場の洗練度」と「事業の洗練度」が2位、「知識と技術の産出」が3位です。一方で、「インフラ」は23位と総合評価を落とす要因になっています。
地下鉄やハイウェイのような交通インフラの劣化など、アメリカのインフラが抱える課題は以前から指摘されていました。これに対し、アメリカのバイデン政権は2021年4月に8年間で220兆円のインフラ投資計画を発表するなど対策を進めようとしています。
サブインデックス別ランキング
- 制度:12位
- 人材と研究:11位
- インフラ:23位
- 市場の洗練度:2位
- 事業の洗練度:2位
- 知識と技術の産出:3位
- 創造的なアウトプット:12位
アメリカのスタートアップリスト「USA Healthcare 100」
4位:イギリス
ヨーロッパのスタートアップ都市として有名なロンドンやケンブリッジを有するイギリスが、4位にランクしています。7項目のうち、「市場の洗練度」および「創造的なアウトプット」で4位、「人材と研究」「インフラ」「知識と技術の産出」で10位です。
「ビジネスの洗練度」が21位とやや順位が下がりますが、その要因として詳細項目のうち、「直接海外投資のGDP比率」が特に低い評価を受けています。
サブインデックス別ランキング
- 制度:15位
- 人材と研究:10位
- インフラ:10位
- 市場の洗練度:4位
- 事業の洗練度:21位
- 知識と技術の産出:10位
- 創造的なアウトプット:4位
イギリスのスタートアップリスト「UK Healthcare 100」
イギリスのスタートアップリスト「UK Energy 100」
イギリスのスタートアップリスト「UK FoodTech 100」
5位:韓国
韓国は、2021年のランキングで初めてトップ5入りを果たしました。7つの項目のうち、「人材と研究」が1位、「事業の洗練度」が7位を獲得しています。
2020年には10位だった韓国のランキングが飛躍した理由は、「知識と技術の産出」と「創造的なアウトプット」の評価が向上したことにあります。また、「制度」と「インフラ」でもやや向上が見られました。
サブインデックス別ランキング
- 制度:28位
- 人材と研究:1位
- インフラ:12位
- 市場の洗練度:18位
- 事業の洗練度:7位
- 知識と技術の産出:8位
- 創造的なアウトプット:8位
日本は13位
2021年度版GIIで日本は13位で、2020年の16位から3つランクを上げました。7つのサブインデックス別に見ると、2020年よりも一つずつ順位を下げたとはいえ「制度」が7位、「インフラ」が9位になっています。
また、「市場の洗練度」でやや大きく後退したものの、「人材と研究」や「知識と技術の産出」「創造的なアウトプット」では向上しました。特に、「創造的なアウトプット」の小項目である「無形資産」において、商標やブランド力が評価された点が目立ちます。
サブインデックス別ランキング
- 制度:7位
- 人材と研究:20位
- インフラ:9位
- 市場の洗練度:15位
- 事業の洗練度:10位
- 知識と技術の産出:11位
- 創造的なアウトプット:18位
まとめ
本記事では、グローバル・イノベーション・インデックスについて解説しました。このインデックスを確認することで、世界各国のイノベーション能力を詳細かつ包括的に理解することができます。海外進出の際に、進出する国や都市を選択する上でも非常に役立つ情報となっています。
海外進出や海外スタートアップとの協業をお考えの際は、お気軽にお問い合わせください。