世界で注目されるフードテック・スタートアップを解説します

フードテックは、フード(食)とテクノロジー(技術)をかけ合わせた用語です。その市場規模の大きさや、環境や食糧問題解決への期待から近年大きな注目を集めています。

本記事では、フードテック業界が注目される背景や、フードテックが取り組んでいる課題、編集部が注目するスタートアップについて解説します。

フードテックとは?

フードテックとは、フード(食)とテクノロジー(技術)をかけ合わせた用語で、食に関連する分野に、ITを中心とした最新のテクノロジーを活用することを指します。フードテックによって、新しい食品開発をしたり、新しい食の提供方法を生み出したりと、食品産業にイノベーションが起こされています。

フードテックが注目される理由

フードテックは世界中で注目されている業界ですが、その背景には大きく分けて2つの理由があります。

市場規模が大きい

フードテックは、今後もその市場規模が大きく成長していくことが予想されています。具体的には、世界のフードテック業界は、2022年に2,500億ドル(約28兆円)に成長する見込みです。

また、フードテック産業の基盤となる食品産業自体も大きな市場を持ち、成長を続けています。世界の飲食料産業の市場規模は2030年には1,360兆円に達すると予測されています。フードテックは食品産業のDXとも考えられるので、フードテック業界の規模も食品産業の規模拡大に伴い大きく伸びていく可能性があります。

世界の課題解決につながる

フードテックが注目される背景には、世界の重要課題解決への期待もあります。

食糧不足(人口増加)

世界では、食糧不足が近い将来に顕在化し大問題となることが危惧されています。その主な原因は世界中での人口増加です。現在地球上には78億人以上が暮らしていますが、2050年には90億人を超えると予測されています。

90億人が心身共に健康に過ごすための食糧を供給するためには、世界での農業生産を増やすことや食糧廃棄物を減らすことが必要になります。食糧生産の中でも特に切迫した問題となるのが、肉類です。肉類の生産には大量の飼料作物や水資源が必要になるため、全人口を賄う食肉や、そこから得ているタンパク質を供給するためにはイノベーションが必要になっています。

また、現在の人口規模においても食糧不足が問題になっていますが、この原因は食糧生産量以上に需要と供給のアンバランスや食糧廃棄量にあると考えられています。食糧廃棄物を削減するためにも、フードテックによるサプライチェーンの最適化などのイノベーションが求められています。

気候変動

食糧不足とも絡んでくる問題が、気候変動です。現在、気候変動の脅威が顕在化し世界中で対策が進められています。気候変動の原因として、自動車の排気ガスや火力発電などと同様に対策が求められているのが肉類の生産です。

肉類の生産において温暖化を引き起こすものとして有名なのが、牛のゲップとして排出されるメタンです。メタンは二酸化炭素以上に温室効果が高いガスであり、畜産現場でのメタン排出は大きな課題になっています。

また、肉類の生産には大量の飼料作物と広大な敷地が必要になります。大規模な敷地を用意するために森林伐採が行われたり、飼料作物の生産過程でも二酸化炭素が排出されたりと、肉類を生産するために大量の温暖化ガスが排出されています。

加えて、食糧を輸送する際の二酸化炭素の排出も問題になっています。新鮮な食材を低温環境で長距離輸送することにより、世界中で多大なエネルギーが消費されています。そこで、食糧生産を都市部の近くで行ったり、食糧の輸送システムを改良したりする必要性が高まっています。

フードテック企業が取り組む領域

現在、さまざまなフードテック企業が存在しますが、統一的な分類方法はありません。ここでは、一例として、フードテック企業が取り組む領域をいくつかご紹介します。

代替肉

代替肉は、増加する肉類およびタンパク質源の需要に応えるために開発されました。通常の畜産による方法以外で生産される肉類およびタンパク質源のことを指し、大きく分けて三つの種類があります。

代替肉の一つ目は、植物肉(plant based meat)です。植物肉は、植物性原料からタンパク質成分を抽出し、本物の肉類に近い味や香りを再現したものです。

代替肉の二つ目は、培養肉(cultured meat)です。培養肉は、動物の個体からではなく動物の細胞を培養して生産された肉類です。培養肉を生産することで、地球温暖化への対策となることが期待されています。

代替肉の三つ目は、昆虫食(insect eating)です。昆虫食は栄養価が非常に高く、少ない天然資源で生産できます。古くから食されてきた歴史もあり、持続可能なタンパク源として期待されています。

アグテック(農業技術)

アグテック(農業技術)とは、従来の農業における課題に対してドローンやAI、ビッグデータ、IoT機器などの先端技術を活用して取り組む分野を指します。アグテックには、農業用のドローンによる農薬散布や農場のデータ管理、工場内での垂直農法による農業生産、AIを活用した食物の成長や収穫時期の予測、ロボットによる自動化などがあります。

アグテックの開発により、農業従事者の働き手不足や、廃棄される生産物の削減などさまざまな問題解決が期待できます。

サプライチェーンマネジメント(SCM)

フードテックにおけるサプライチェーンマネジメントは、農作物の生産から消費者のもとに届くまでの経路やシステムの最適化を行う分野です。農業SCMに取り組むことで、世界の食糧不足の問題や、輸送によるエネルギー消費の問題解決に貢献することができます。

世界の食糧不足を起こす原因のひとつとして食糧廃棄物があります。食糧の需要供給の予測をしたり、食糧の輸送を追跡してデータを解析することで、廃棄される食品の量を減らすことができます。また、輸送経路の最適化をすることで、エネルギーコストを抑えると同時に食糧アクセスの不平等を解消することも期待されます。

フードテックの注目企業

ここでは、日本ではまだあまり知られていないフードテック領域の注目企業をいくつかご紹介します。

Jimini’s

Image: JiMiNi’S / edie

Jimini’sは、フランスの昆虫食を開発する企業です。バッタやミールワームと呼ばれる昆虫から得られるタンパク質を元に、プロテインバーやグラノーラを製造しています。食用の昆虫は従来のタンパク源である食肉と比較して、大量の水や飼育面積を必要とせず、低い環境負荷で生産することが可能です。

創立:2012年

投資額:€1M(約1.3億円)

出資者:Inco

URL:https://www.jiminis.com/en

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LettUs Grow

Image: LettUs Grow / Dassault Systèmes

LettUs Growは、イギリスのアグリテック企業です。独自のエアロポニック技術により、垂直農法による農産物をより手頃な価格で生産しています。エアロポニック技術とは、土壌や水耕栽培の代わりに栄養豊富なミストを活用した栽培技術です。LettUs Growではこの技術を搭載したコンテナファームを提供しています。

創立:2015年

投資額:£3.4M(約5.1億円)

出資者:Longwall Venture Partners

URL:https://www.lettusgrow.com/

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SPRK.global

Image: SPRK.global / official website

SPRK.globalは、フードテック・サプライチェーンマネジメントに取り組むドイツの企業です。AIを活用した配送プラットフォームを提供しています。AIによるパターン予測を活用することで、食物の過剰供給を減らしフードロスのないサプライチェーンを構築することに取り組んでいます。

創立:2019年

投資額:未公開

出資者:未公開

URL:https://www.sprk.global/

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まとめ

本記事では、フードテックの概要について解説しました。フードテックは、日本のみならず、世界中で大きな注目を集めている業界です。特に、気候変動や食糧不足への問題意識の高い欧米諸国では、その解決の可能性をもったフードテックに期待が寄せられ、業界は大いなる盛り上がりを見せています。

フードテック業界における海外進出や海外スタートアップとの協働をお考えの際には、お気軽にお問い合わせください。

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