サステナビリティを重視する海外のベンチャーキャピタルを紹介します(前編)
ESG投資をはじめとしたサステナブルビジネスへの投資拡大を受け、気候変動や環境問題に取り組むスタートアップやベンチャーキャピタル(VC)が注目を集めています。
これから3回に分けて、サステナビリティを重視するVCを取り上げます。初回となる本記事では、VCやサステナビリティ領域の基礎的な情報と合わせて、欧米を中心にしたサステナビリティを専門とするVCをご紹介します。
目次
ベンチャーキャピタルとは
ベンチャーキャピタル(VC)とは、長期的な成長の可能性があるスタートアップに投資する投資機関です。スタートアップは株式公開や銀行ローンなどの資金調達が難しいので、VCからの資金提供が人気の手段となっています。
VCは、資金提供の他に技術・経営的な支援をする場合もあります。これらのリソースを提供する見返りとして、スタートアップの株式を取得し会社の意思決定に加わることが多いです。上場株式の購入などと比較して流動性が低くリスクの高い投資ですが、投資したスタートアップの成長によって大きなリターンを得られる可能性があります。
注目が高まるサステナビリティ
近年、台風やハリケーンなどの異常気象の頻発や、森林破壊と生物種の絶滅、感染症の拡大など、環境破壊や温暖化に関連する問題が深刻化したことで、サステナビリティへの注目が世界中で高まっています。
2015年には国連が持続可能な開発目標(SDGs)を採択し、貧困や飢餓の解決や自然保護など統一的な17の目標が設定されました。また、同年のパリ協定では、世界の気温上昇の限度が定められ、温室効果ガス排出量の削減のために国内措置を取ることが求められています。
これらの国際的な取り決めを受けて、経済界においても、環境や社会的影響を考慮したESG投資やインパクト投資が関心を集めるようになりました。特に、ESG投資総額は、2020年に35.3兆ドル(約4013兆円)と見積もられるなど、大きな潮流となっています。
グリーンスタートアップ
サステナビリティへの関心の高まりを反映するように、気候変動や環境問題に取り組むスタートアップも増加しています。これらの企業は、環境スタートアップや、グリーンスタートアップと呼ばれます。
グリーンスタートアップは、テクノロジーを活用して環境に優しい製品やサービスを提供することで、環境・社会的利益を促進することを目指します。
一般的なスタートアップが短期間での急成長と大きな経済的リターンを追求するのに対して、グリーンスタートアップはより中長期的な持続可能性を重視する点が特徴的です。
サステナビリティに特化したVC
かつては環境問題が重視されず、必要な投資規模が大きかったり投資回収までに長い年数が必要だったりするグリーンスタートアップには、十分な資金が集まりにくい状況がありました。
しかし、近年はESG投資など環境領域への投資拡大によって、持続可能性に配慮したビジネスが経済的にも成功するようになりました。実際に、世界経済フォーラムによるレポートでは、サステナブルな起業機会には10兆ドル(約1137兆円)のビジネス価値があり、10年間で3.95億人の雇用を生むと推定されています。
このような流れの中で、環境やサステナビリティに特化したVCが増えつつあります。
investir &+
investir &+は、フランスのパリに本社を持つ、2005年設立のインパクト投資を専門にするVCです。環境的、社会的に価値の高いプロジェクトを開発する起業家を支援することを目的としています。
投資先に選ばれるには、「雇用、インクルージョン、機会均等」や「環境、持続可能な農業」など主要な環境・社会的テーマに取り組むことに加えて、高い収益性、急成長の可能性があることなど、いくつかの基準を満たす必要があります。
Creas
Creasは、スペインのマドリードに本社を持つ、インパクト投資を専門とするVCです。2008年以来15社以上に投資を行ない、現在は3000万ユーロ(約38.6億円)以上を運用しています。
意思決定や投資先の管理においても「インパクト」を中心的基準とし、10年以上にわたって投資先企業が社会に与えるインパクトを測定してきました。例えば、JumpmathやTrilemaのような教育系の事業では500校6万人の生徒の成績が向上し、環境に配慮したSadakoやBluemoveの事業では15トンのCO2が削減されました。
Icos Capital
Icos Capitalは、デジタルと持続可能性の接点として、企業とスタートアップを結びつける「コラボレーティブ」なVCです。オランダのロッテルダムを拠点とし、2005年に設立されました。
人々、地球環境、収益性の3点を重視し、持続性を損なうことなく人や環境に利益をもたらす急成長企業を特定します。2006年にIcos Cleantech Fund Ⅰ、2010年にIcos Cleantech Fund Ⅱ、2017年にIcos Capital Fund Ⅲを設立し、オランダからヨーロッパ諸国、イスラエルまで、気候や持続可能性に焦点を当てた企業に投資してきました。
Impact Ventures UK
Impact Ventures UKは、イギリスの恵まれない人々の生活にポジティブで持続可能な変化をもたらすような、革新的なビジネスモデルを持つ社会的企業に、長期的なグロースキャピタルを提供するVCです。イギリスのインパクト投資をリードするBig Society Capitalの一部門として、3600万ポンド(約54億円)が運用されています。
2013年に投資を開始し、これまでに13社を支援することで、50万人にインパクトを与えました。SDGsにおいては、「1.貧困をなくそう」 「3.すべての人に健康と福祉を」など6つの目標に取り組んでいます。
Impact X
Impact Xは、持続可能な社会を構築するために、地球規模の課題を解決できる「インパクト・テクノロジー」へ投資するグローバル・コミュニティです。
「食料システム」「エネルギーと炭素」「インクルーシブ・ファイナンス」など6つのカテゴリーがあり、それらの問題解決につながる、インパクトの強いアイデアを持つアーリーステージのスタートアップを支援しています。また、創業者や投資家のネットワーキングを目的としたイベントImpact X Summitを定期的に開催しています。
Ragnarson Fund
Ragnarson Fundは、インパクト主導型のアーリーステージスタートアップを専門とするファンドです。ポーランド最大の工業都市ウッチに本社を持ちます。特に、ソフトウェア開発に強みがあり、支援先企業に対してMVP(Minimum Viable Product、スタートアップ初期に作成する必要最低限の機能を持った製品)の作成をサポートしています。
企業の脱炭素化を支援するGlobal Changerや、持続可能な紳士服のレンタルサービスを提供するPOOLなどに投資しています。
まとめ
本記事では、サステナビリティを重視するヨーロッパのベンチャーキャピタルをご紹介しました。
これらのVCは、投資先企業の収益性と環境や社会に対するポジティブなインパクトを同等に評価するので、投資先を見てみると素晴らしいスタートアップの発見につながる可能性もあります。
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