フランスの環境問題と対策を解説します(1)大気汚染

フランスでは、パリをはじめとする都市部において大気汚染が深刻な問題となっています。原因として、自動車排気ガスと薪ストーブの利用が考えられ、それぞれに対策が実施されています。将来的には、排気ガスのない電気自動車やハイブリッドカー、密閉型ストーブなどの更なる普及を目指しています。

フランスの環境問題

フランスはパリをはじめとする都市部が有名ですが、実際には国土の3分の2にあたる肥沃な平野を持つ、EU最大の農業大国です。湿度が低く涼しい北部は農業、パリ近郊や中央部は小麦などの穀物、南部山岳地帯は畜産、地中海沿岸部などの温暖な地域はワインの生産で有名です。

また、フランスの人口は約6500万人で、EU内ではドイツに次いで2番目に多くの人が住んでいます。その大部分は都市部に集中するため、大気汚染のような都市型課題も存在します。

連載となる本記事では、フランスの特徴的な環境問題や対策について一つずつ解説します。初回となる今回は、都市課題の代表でもある大気汚染を取り上げ、フランスでの状況や対策を紹介します。

大気汚染

大気汚染とは、大気中に有害な微粒子や気体成分が増加し、環境や人体へ悪影響を及ぼすことです。主な原因は、工場生産による大気汚染物質の排出や、自動車を中心とした輸送時の排気ガスです。

世界各国の都市部において、特にその工業生産が盛んだった頃に大きな問題になりましたが、現在も多くの都市が汚染防止に継続して取り組んでいます。

概要

フランスでも、パリを中心とする地域圏イル・ド・フランスにおいて、大気汚染が大きな問題となりました。フランスの環境エネルギー当局の発表によると、年間4万人以上が大気汚染が原因で亡くなっています。

この深刻な問題の主な原因となっているのは、ディーゼル車と、暖房器具の利用の二つだと考えられています。

原因1:ディーゼル車

miniature figures of four people and a car emitting exhaust gas

ディーゼル車とは、ガソリンよりも着火性に優れ安価な軽油を燃料とする自動車です。ガソリン車よりも燃費がよく、費用を抑えて長距離を走行することができます。日本ではあまり見かけませんが、陸続きのヨーロッパでは長距離移動が多いのでディーゼル車が好まれます。

メリットの多いディーゼル車ですが、排気ガスの黒煙には大気汚染を引き起こす粒子状物質PMや窒素酸化物NOxが含まれており、これが大きなデメリットです。これらの有害物質は、喉や肺などの呼吸器系にダメージを与えるとされ、問題視されています。

対策:自動車への規制

2014年3月にはエッフェル塔が霞むほど大気汚染が悪化し、パリで自動車規制が行なわれました。当時約20年ぶりに実施されたこの規制では、ナンバープレートの末尾が奇数か偶数かによって走行日を制限することで、交通量の半減を狙いました。

市内には700人の警官が配備され自動車のチェックを行なうと共に、自動車を利用できない人のために公共交通機関が無料になりました。

その後も、2017年には、車種や生産年、排気ガスの含有成分量などを基準に6種類のステッカーが発行され、フロントガラスに貼ることが義務付けられました。

フランスでは、このような規制を通して、古い車やガソリン車・ディーゼル車を減らしていき、電気自動車やハイブリッドカーを普及させることを目指しています。具体的に、マクロン政権は2040年までにガソリン車とディーゼル車の製造を禁止すると発表しています。

原因2:暖房器具

Wood-burned stove

フランスでは今でも多くの地域で、暖炉や薪ストーブなどの暖房器具が使用されています。住宅街を歩くと、煙突からモクモクと昇る煙を見ることもできて、フランスの文化的な一面が感じられます。

一方で、これらの暖房器具の利用は、ディーゼル車と同じように大気汚染の原因となるPMやススを排出します。

対策:暖房器具の使用規制

2014年12月には、イル・ド・フランス当局が大気汚染対策として、パリでの暖炉の使用を禁止し、そのほかの市町村でも薪を使ったストーブは禁止、排気がクリーンな密閉型ストーブのみ使用できることになると発表しました。

しかし、この対策には大きな疑問と反対の声があがり、実施は見送られています。反対した煙突掃除業者らは、パリにある暖炉のうち現在も使用されているのは10%程度であり、年に数回しか使用しないため、影響は大きくないと主張しました。

暖炉の煙が、大気汚染にどの程度影響しているかも議論の的です。環境エネルギー当局は、大気中の微粒子の23%が薪ストーブ由来であり、自動車の排気ガスに匹敵する割合であることや、密閉型ストーブと比べて8倍の微粒子が排出されていると説明しました。

これに対して、パリと周辺地域の大気を観測するAirparifは、大気汚染を引き起こす微粒子の39%が排ガスに由来し、暖炉で薪を燃やすことで排出される微粒子は4%程度に過ぎないと反論しました。

その後もこの問題は続いており、地域によっては暖炉の使用を禁止されたところもあります。そして、2021年4月には、薪を燃やすことで一般家庭から排出される微粒子を50%削減する計画案を環境相が発表しました。

まとめ

今回のシリーズではフランスの環境問題と対策を取り上げ、1回目の本記事では大気汚染について解説しました。多くの都市で問題となる大気汚染ですが、フランスではその文化的背景も影響して特に大きな課題となっています。

続く記事では、フランスで同じく問題視されるプラスチックゴミについて解説します。

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