次々とスタートアップを生み出す仕組み、スタートアップスタジオについて解説します

スタートアップスタジオとは、スタートアップや新規事業を継続的に生み出し育成する組織です。エンジニアやデザイナーなどの人的資本の提供、資金調達のサポート、起業ノウハウの共有など、さまざまな側面で創業者の支援を行ないます。本記事では、スタートアップスタジオの概説と併せて、海外のスタジオをご紹介します。

スタートアップスタジオとは

スタートアップスタジオとは、スタートアップや新規事業を継続的に生み出し育成する組織です。エンジニアやデザイナーなどの人的資本の提供、資金調達のサポート、起業ノウハウの共有など、さまざまな側面で創業者の支援を行ないます。それらの支援を得ることでアイデアを持った人が事業を立ち上げる障壁が下がり、スタジオ内では複数の新規事業を同時に回すことができます。

このモデルはハリウッドの映画制作スタジオの仕組みと似ています。映画の制作には多大な時間とコストがかかりますが、ハリウッドではスタジオが機能することで年間数百本の映画が作成されます。映画スタジオ内には、監督、脚本家、カメラマンなど制作に必要な専門家や、多くの映画を生み出す中で培われた知見があるので、新たな映画のアイデアを効率的に作品として仕上げることができるのです。

スタートアップスタジオは、ハリウッドの映画制作スタジオの新規事業版と考えることができます。

スタートアップスタジオの歴史

最初のスタートアップスタジオ

1996年にBill Gross氏によって、最初のスタートアップスタジオであるIdealabがカリフォルニアに設立されました。連続起業家であるBill Gross氏は、スタートアップの可能性を信じていましたが、なぜ多くのスタートアップが失敗に終わるのか、成功させる上で重要な要素は何かを見つけてシステム化したいと考えていました。そして設立されたのがIdealabです。

Idealabを通して、これまでに150社以上が設立され、45社以上がIPOまたはM&Aに成功しています。

スタートアップスタジオの流行

スタートアップスタジオが注目され始めたのは、2000年のドットコム・バブルによるアメリカの景気後退以降です。多くのIT関連企業が倒産する中で、スタートアップスタジオは堅実な成長を続けました。

続く2000年代後半にはBetaworksRocket Internetが、2010年代にはeFoundersAtomicが設立されました。その後スタートアップスタジオの勢いはさらに拡大し、Pioneer Square Labs (PSL) Expaなど、より大規模で注目を集めるスタートアップスタジオが世界で誕生しています。

ベンチャーキャピタルとの違い

スタートアップに投資し成長をサポートする点で、ベンチャーキャピタルとスタートアップスタジオは似ていますが、関与の深さに違いがあります。ベンチャーキャピタルは一般的に資金提供を主としますが、スタートアップスタジオはスタジオ内のメンバーが創業社員となって働くことも多く、スタートアップの立ち上げを内部からもサポートします。

スタートアップスタジオの種類

スタートアップスタジオにはいくつかのタイプがあります。このタイプに統一的な定義はなく複数の分類方法がありますが、ここではそのうちの一つをご紹介します。

オペレーターモデル

オペレーターモデルのスタジオでは、スタートアップのアイデア創出および検証段階において資金や人材などのリソース支援を行ないます。初期の投資額は25万ドル(約2,850万円)程度で、創業後間もないスタートアップをシードラウンドまで成長させる役目を担います。

オペレーターモデルを採用するスタジオには、IdealabScience Incなどがあります。

エージェンシーモデル

エージェンシーモデルのスタジオは、スタートアップスタジオの他に十分なキャッシュフローを持っています。その収益を社内のアイデアに投資し、スタートアップの創出と育成を行ないます。このモデルでは、マーケットや顧客課題に対するスタジオ独自の知見が活用されます。

エージェンシーモデルの例としては、Rainmakingetventureが挙げられます。

海外のスタートアップスタジオ

海外で注目されている主要なスタートアップスタジオをいくつかご紹介します。

(本記事内では、2021年10月現在の情報を掲載しています)

Atomic

Image: Atomic / TechCrunch Japan

Atomicは2012年に設立されたスタートアップスタジオです。設立時には、アメリカテック業界の大物であるPeter Thiel氏やMarc Andreessen氏から投資を受けています。創業者のJack Abraham氏は、Atomic以前にローカルのプロダクト検索エンジンを提供するMilo.comを創業し、eBayに売却した経験のある起業家です。

Atomicのスタートアップ

など。

Betaworks

Image: Betaworks / TechCrunch Japan

Betaworksは2008年に設立されたスタジオです。創業者のJohn Borthwick氏は、Fotologという写真共有SNSサービスを起業、売却した後に、Betaworksを設立しました。Betaworks出身の代表的な企業には、GIF画像の検索エンジンを提供するGiphyや、メディア企業向けの解析ツールを提供するChartbeatなどがあります。また、AirbnbやPinterestのような有名スタートアップにも投資しています。

Betaworksのスタートアップ

など。

Builders

Image: Builders / official website

Buildersは2015年に設立された、オランダのスタートアップスタジオです。共同創業者の獲得や、資金調達、運営サポートをすることで、大胆なアイデアを持つスタートアップを優れたソフトウェア企業にしています。これまでにスタジオ内で100個のアイデアが生まれ、10社がスタートアップとして創業しました。Builders出身の企業には、クリエイティブ産業向けのクラウドプラットフォームを提供するIPSなどがあります。

Buildersのスタートアップ

など。

Rocket Internet

Image: Rocket Internet / Post & Parcel

Rocket Internetは、2007年に設立されたベルリンのスタートアップスタジオです。インターネットビジネスに特化して、アメリカで成功したスタートアップアイデアをヨーロッパと東南アジアを中心としたマーケットで模倣する戦略をとっています。この事業モデルには批判の声があり、2014年にはフランクフルトで上場しましたが、株価の落ち込みから2020年に上場廃止となりました。

同社の代表的なスタートアップには、東南アジアで展開するeコマースプラットフォームのLazadaなどがあります。

Rocket Internetのスタートアップ

など。

まとめ

本記事では、スタートアップスタジオを取り上げ、スタジオが誕生した背景や種類、海外の主要なスタジオについて解説しました。国内外のスタートアップスタジオを理解するうえで、お役に立てれば幸いです。また、海外のスタートアップを調べる際に、どのスタジオ出身かを意識すると、有力な企業を見つけやすくなることも期待できます。

海外への進出や海外スタートアップとの協働をお考えの際は、お気軽にご連絡ください。

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