インパクト投資とは?ESG投資との違いは?

インパクト投資とは、財務的利益を求めるだけでなく、社会や環境へ測定可能でポジティブな影響を及ぼす投資活動のことを指します。本記事では、ESG投資との違いや、インパクト投資を推進する活動・団体、事例について紹介します。

インパクト投資とは

インパクト投資とは、財務的利益を求めるだけでなく、社会や環境へ測定可能でポジティブな影響を及ぼす投資活動のことを指します。

2007年にロックフェラー財団がインパクト投資という言葉を最初に使ったとされますが、それ以前からさまざまな形で同様の投資活動が行なわれてきました。古くは聖書やコーランの教義や戒律を反映し、取引における高利貸しや搾取が禁止されていました。

また、近代になると、ベトナム戦争、チェルノブイリやスリーマイル島の原発事故、アパルトヘイトなどの社会・環境的問題に関する投資判断や議論が活発化しました。この頃までは、インパクト投資ではなく「社会的責任投資(SRI)」と呼ぶことが一般的でした。

現在、インパクト投資はさらに拡大の傾向にあります。世界最大のインパクト投資ネットワークであるGIIN(Global Impact Investing Network)の2019年のレポートによると、インパクト投資の規模は5,020億ドル(約57.0兆円)でした。一方で、世界銀行機関のIFC(International Financial Corporation)の2020年のレポートでは、2.3兆ドル(約260.5兆円)と見積もられています。

レポートの時期や算出方法によって異なりますが、その投資規模の大きさがうかがえます。

ESG投資との違い

Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)に配慮したESG投資は、インパクト投資と似た意味を持ちますが、その違いはどこにあるのでしょうか?インパクト投資は社会課題解決の意図を持ち、その解決度を測定する点がESG投資とは大きく異なります。

ESG投資では、企業の財務諸表の外にある社会・環境・ガバナンス面に関わるリスクやリターンを検討し、株式価格に反映させることを試みます。

例えば、ガバナンスが不十分で労働環境の悪い企業があれば、労働者によるストライキのリスクがあり、化学物質や設備の安全性が配慮されていない企業であれば、環境災害を引き起こし賠償責任等を負うリスクが考えられます。逆に、原材料のフットプリントやフェアトレード、海外工場の労働環境などに配慮すれば、消費者から高く評価される可能性もあります。

いずれにしても、ESG投資では、企業が社会や環境に与えるポジティブなインパクトを目的にしているわけではなく、リターンを高めたりリスクを抑えることに主眼を置きます。

 

これに対して、インパクト投資ではリターンやリスクの財務的利益と同等に、社会・環境的な問題解決を目的として投資が行なわれます。そのため、投資がどれだけポジティブなインパクトを生み出したかを定量的に測定し、報告するのです。

例えば、低所得層の人々に対するマイクロファイナンス事業に投資する場合、その投資と事業活動によって地域の人々の平均月収が何%向上したかなどのアウトカム(結果)を確認します。

インパクト投資を推進する活動

世界には、インパクト投資を推進・活性化する活動が多数存在していますが、ここでは特に代表的な組織等をご紹介します。

GIIN(Global Impact Investing Network)

Image: GIIN / LAVCA

GIINは、世界の投資家や企業による世界最大のインパクト投資ネットワークです。2009年の設立で、20,000以上の会員数を持ちます。JPモルガンや欧州復興開発銀行などの大手金融機関に加え、ロックフェラー財団やフォード財団のような慈善事業団体が会員に名を連ねています。

GIINは、インパクト投資に関するネットワーキングやイベントの運営、インパクトの測定・管理ツールの提供、投資家やファンドマネージャー向けのトレーニンングプログラム、市場リサーチなどを行なっています。

SDG Impact

Image: SDG Impact / GSG国内諮問委員会

SDG Impactは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成のために民間セクターの資本を創出し活用することを目的とした、国連開発計画が主導する団体です。2018年9月に発足し、SDGs達成への貢献度を認証したり、新興国や途上国におけるSDG投資機会を特定したりするためのツールや統一的な基準を、投資家や企業に提供しています。

スタートアップのように、イノベーションや素早い実験と修正を重視しており、比較的短期間で市場に投入されるプロトタイプ製品やサービスの開発に焦点を当てています。

UNEP FI

Image: UNEP FI / ESG Journal

1972年に、ストックホルム国連人間環境会議で採択された「人間環境宣言」と「環境国際行動計画」の実行機関としてUNEP(国連環境計画)が設立されました。このUNEPと世界各地の金融機関との間にパートナーシップを確立するための組織が、UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)です。UNEP FIは1992年の設立以来、経済的発展とESGへの配慮を統合した金融システムへの転換に取り組んでいます。

2017年には、ESGにプラスの影響を増大させようと努力する金融機関や投資家の共通原則として、ポジティブインパクト金融原則を発表しました。続く2018年には、包括的なインパクト分析のためのツールとしてインパクト・レーダーを発表しています。

GSG

Image: GSG / Twitter @GSGimpinv

GSG(The Global Steering Group for Impact Investment)は、人々や地球によい影響を与えるインパクト投資を推進するグローバルネットワークです。2013年にイギリスのキャメロン首相の呼びかけで、前身となるG8社会的インパクト投資タスクフォースが設立され、2015年にGSGに名称変更しました。現在、世界33の国とEUがネットワークに参加しています。

イノベーティブなアイデアや製品の開発、イベントや会議、教育機会の主催、世界のGSG委員会のコミュニティ開発などに取り組んでいます。

インパクト投資事例

ここからは、日本と海外におけるインパクト投資のケーススタディをいくつかご紹介します。日本の事例は、GSG国内諮問委員会による「日本におけるインパクト投資の現状2019」より抜粋し、海外の事例はGIIN公式サイト内のCase Studiesより抜粋し、紹介します。

日本の事例:JVPFによる株式会社AsMamaへの投資

JVPF(日本ベンチャー・フィランソロピー基金)は、株式会社AsMamaに対して2015年から2019年の4年間で総額3000万円の投資を行ないました。この投資では、地域での子育てシェアを中心とした共助インフラの創出を目的とし、AsMamaが開発した子育てシェア・アプリの展開のために資金調達が行われました。

同社は支援期間中に、経営基盤の整備に加え、インパクトと両立する収益モデルを構築し、支援金額全額を返済することに成功しました。

海外の事例:SunFunderによるBeyond the Grid Fund

SunFunderは、ケニアを拠点とし2012年に設立された、オフグリッド(電力網に接続されていない独立した)太陽光発電を専門とする金融機関です。世界的なエネルギー変革を推進し、エネルギーの生産と流通による環境負荷を緩和し、気候変動を制限することを目的としています。

同社は、多様な投資家にエネルギー市場への参入機会を提供すると共に、太陽発電事業者に大規模な資金調達手段を提供するためのファンドを設立しました。2017年に最初のファンドとして、4,700万ドル(約53.3億円)を運営するBeyond the Grid Fundを立ち上げ、続いて7,000万ドル(約79.4億円)を運営するSolar Energy Transformation Fundを立ち上げました。

海外の事例:The California EndowmentによるThe FreshWork Fund

The California Endowmentは、1996年に設立されたヘルスケアを専門とする基金です。カリフォルニア州の低所得地域などで十分なサービスを受けられない人々に、手頃な価格で質の高いヘルスケアを提供することを目指しています。

同財団が、アクセスが限られている特に低所得地域の人々に対して健康的な食事の選択肢を増やすことを目的に立ち上げたのが、The FreshWorks Fundです。The California Endowmentの他に、JPMorgan Chase FoundationやThe U.S. Treasury’s Community Development Financial Institutions Fundが資金提供し、2011年から10年間で750万ドル(約8.5億円)を運用しています。

まとめ

本記事では、インパクト投資について解説しました。SDGsやESG投資の盛り上がりと共に、さらに注目を集めているインパクト投資ですが、主要な団体や事例を押さえて理解を深めることも重要です。

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