現在、世界の国や都市がスタートアップ企業の育成に力を注いでいます。各国・地域でさまざまな戦略が取られていますが、共通して重点的に取り組まれているのが、スタートアップ・エコシステムの創出です。編集部が注目すべき都市TOP6を紹介します。ランキングリストもダウンロードできます。
目次
スタートアップ・エコシステムとは?
スタートアップ・エコシステムとは、スタートアップを継続的に創出することを目的として、大企業や大学、研究機関、投資家や起業家が集まって協働する動的な共同体です。スタートアップ・エコシステムから輩出されて成功した起業家は、後輩の起業家のメンターとなったり、育成されて大企業となったスタートアップが研究開発に投資して、さらなるイノベーションの種を創出するなど、エコシステムを通してスタートアップ創出が循環していくことをめざしています。
もっとも有名な例が、アメリカのシリコンバレーです。シリコンバレーには、GoogleやAppleのような大手テック企業、スタンフォード大学を始めとする有名大学、ベンチャー投資家や弁護士が存在し、優秀な人材や知識が有機的につながることで次々に世界的スタートアップ企業を作り上げてきました。
シリコンバレーに刺激を受けて、世界の国や都市がスタートアップ・エコシステムの創出に取り組むようになりました。
「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート」(GSER)
本記事では、世界のスタートアップ・エコシステムをランキングにした、The 2020 Global Startup Ecosystem Report (GSER) をご紹介します。
このレポートは、Startup GenomeとGlobal Entrepreneurship Network (GEN) が作成しています。
Startup Genomeは、世界のスタートアップ・エコシステムのパフォーマンスの向上を目指す、研究および政策提言組織です。世界6大陸にまたがり、40か国以上に100を超えるクライアントを有しています。また、250以上の都市で150万社を対象として、10年以上にわたる独立した調査を行ない、レポートを作成しています。
GENは、誰でも、どこでも、起業と業務の拡大を容易にすることを目的に、170か国で事業と事業計画のプラットフォームを運営しています。世界中の起業家と、起業家を支援する人びとをつなぐことで、より深いコラボレーションを促進し、よりよいスタートとスケーリングのエコシステムを促進することをめざしています。
2020年版のGSERは、東京が上位30位以内に初めてランクインして、日本でも注目を集めました。
評価項目
GSERでは、140のスタートアップ・エコシステムを6つの大きな項目ごとに評価しています。各項目は10点満点で採点され、総合点によってランキングが作成されています。
以下に示す6つの項目について解説します。
- Performance(パフォーマンス)
- Funding(資金調達)
- Connectedness(つながり)
- Market Reach(市場での活動)
- Knowledge(知識)
- Talent(人材)
1. Performance(パフォーマンス)
パフォーマンスは、3つの観点から評価されています。
1つ目は「エコシステムの価値」です。この観点では、エコシステムが経済与えおるの影響度を測定しています。具体的には、2年半の間に発生したイグジット(M&AもしくはIPO)の総額とスタートアップ企業の価値を合計した数値で影響力を評価しています。
2つ目は「イグジット」です。この観点では、5,000万ドル(約55億円)以上のイグジット数および、10億ドル以上のイグジット数に加えて、イグジット数の成長率を評価しています。
3つ目は「スタートアップの成功」です。この観点では、そのエコシステムの中で成功したスタートアップの数を評価しています。具体的には、アーリーステージでの成功、レイトステージでの成功、イグジットまでの速さに分けて評価されています。アーリーステージについては、シリーズAの企業数に対するシリーズBの企業数の割合を算出しています。レイトステージについては、シリーズAの企業数に対するシリーズCの企業数の割合および、10億ドル以上の価値をもつ企業数が評価されています。
2. Funding(資金調達)
資金調達は、2つの観点から評価されています。
1つ目は「アクセス」です。この観点では、アーリーステージにおける資金調達額とその成長率を評価しています。
2つ目は「質と活動」です。この観点では、地域の投資家数、投資家の経験年数および投資先企業のイグジットの割合と、投資家の活動量を評価しています。投資家の活動量においては、2020年の第1四半期において活発な投資活動を行なっていた投資家の割合と、新しい投資家数から評価が行われます。
3. Connectedness(つながり)
つながりは、2つの観点から評価されています。
1つ目は「ローカルなつながり」です。この観点では、エコシステム内部でのテクノロジー・ミートアップ・イベントの数を計測しています。
2つ目は「インフラ」です。この観点では、ライフサイエンスに焦点を合わせた、エコシステム内のアクセラレーターとインキュベーター、研究助成金、および研究開発拠点(例:一流の研究病院やR&D企業ラボ)を評価しています。
4. Market Reach(市場での活動)
市場での活動は、3つの観点から評価されています。
1つ目は「世界を牽引する企業」です。この観点では、エコシステムにおけるスケールアップとユニコーン企業を評価しています。具体的には、10億ドル以上の評価をされている企業の割合、GDPに対する10億ドル以上のイグジットの割合、資金調達額に対して大きなイグジット(シリーズAの企業数に対する5,000万ドル(約55億円)以上のイグジット)を評価しています。
2つ目は「地域での活動」です。ここでは、国のGDPの関数として表される現地市場のサイズを評価しています。
3つ目は「知的財産の商業化」です。政策環境が有形の知的財産の商業化をどの程度促進しているかを示す指標で、国レベルで測定されます。
5. Knowledge(知識)
知識の項目は、2つの観点から評価されています。
1つ目は「研究」です。この観点は、論文のインパクトを示すH-Indexに基づいて、国レベルでのライフサイエンス研究の生産性を調べたものです。
2つ目は「特許」です。この観点は、エコシステムで創出されるライフサイエンス分野の特許の数、複雑さ、可能性を評価しています。
6. Talent(人材)
人材の項目は、テクノロジー人材、ライフサイエンス人材、および経験の3つに分割されています。
まず、テクノロジー人材は、3つの観点から構成されています。
1つ目は「アクセス」です。この観点では、採用時にスタートアップでの経験が2年以上あるエンジニアと、成長期の社員の割合を評価しています。
2つ目は「質」です。この観点では、GitHub上のトップ開発者数と密度、英語の熟錬度、過去のイグジット数、エコシステム内の経験豊富なスケールチームの存在が評価されています。
3つ目は「コスト」です。この観点では、平均的なソフトウェア・エンジニアの報酬が評価されています。また、高すぎる給料は低スコア評価を受ける要因ともなっています。
次に、ライフサイエンス人材は、2つの観点から構成されています。
1つ目は「アクセス」です。この観点は、STEM系の生徒数や卒業者数、ライフサイエンス系の大学数と学位プログラム数を測定しています。
2つ目は「質」です。ここでは、ライフサイエンス系の現地の大学とその大学が提供するプログラムの質を評価しています。
最後に「経験」は、2つの観点から構成されています。
1つ目は「スケールの経験」です。ここでは、エコシステム内で設立されたスタートアップの10年間における重要なイグジット(5,000万ドル以上および10億ドル以上)の累積数が評価されています。
2つ目は「スタートアップの経験」です。ここでは、エコシステム内で設立され、シリーズAの段階で資金提供を受けたアーリーステージの企業の累積数が評価されています。
エコシステム・ランキング
ここからは、ランキングの上位30位の中から、いくつかのエコシステムを紹介します。
シリコンバレー(1位)
首位はアメリカ、シリコンバレーです。シリコンバレーは、このランキングが始まった2012年から継続して首位を維持しています。6つの評価項目でも、「つながり」以外の5つの項目で満点と評価されています。シリコンバレーは、他のエコシステムと比較すると、ライフサイエンス人材よりもテック人材に重点を置いています。
評価詳細
・パフォーマンス:10
・資金調達:10
・つながり:8
・市場での活動:10
・知識:10
・人材:10
ニューヨーク(同率2位)
2位はアメリカ、ニューヨークです。6つの評価項目では、「知識」が5点と評価されていますが、それ以外の5つの項目で非常に高い評価を獲得しています。ニューヨークは、AIやビッグデータに関する資金調達額において、シリコンバレーを抑えて最高額を記録しています。また、ニューヨークのテックワーカーの50%が海外出身である、女性が経営する企業が41万社あるなど多様性においても優れています。
評価詳細
・パフォーマンス:10
・資金調達:10
・つながり:10
・市場での活動:9
・知識:5
・人材:10
ロンドン(同率2位)
イギリス、ロンドンは2位にランクされています。6つの評価項目では、「知識」が7点の評価を得ていますが、それ以外の5つの項目で非常に高い評価を受けています。イギリスは、欧州でも特にスタートアップ企業の輩出に力を入れている国で、ロンドンはその代表都市です。ユニコーン企業の輩出数も、アメリカと中国に次いで3位になっています。
評価詳細
・パフォーマンス:9
・資金調達:10
・つながり:10
・市場での活動:10
・知識:7
・人材:10
北京(4位)
中国、北京は、アジア圏のエコシステムとして最高位の3位にランクされています。項目別評価では、「つながり」が低く評価されていますが、その他の項目では高評価を得ています。アメリカに次ぐスタートアップ大国となった、中国国内の企業の多くが北京から輩出されています。北京の清華大学には、シリコンバレーにおけるスタンフォード大学のように優秀な人材が集まっています。
評価詳細
・パフォーマンス:10
・資金調達:9
・つながり:1
・市場での活動:10
・知識:10
・人材:10
ボストン(5位)
アメリカ、ボストンは、5位にランクされています。ボストンには、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学が存在し、世界中から優秀な人材が集まっています。ボストンのスタートアップは、シリコンバレーと比較すると、IT系よりもバイオ系やヘルスケア系の企業が多いことが特徴です。
評価詳細
・パフォーマンス:9
・資金調達:9
・つながり:9
・市場での活動:9
・知識:5
・人材:9
テルアビブ – エルサレム(6位)
イスラエル最大の都市エルサレムと、第二の都市テルアビブからなるエコシステムが6位にランクされています。エルサレムとテルアビブは約70kmの距離にあり(東京-大阪間は約500km)一つの経済圏として成立しています。イスラエルには徴兵制があり、兵役中に知り合った間柄での起業が数多くあります。
評価詳細
・パフォーマンス:9
・資金調達:9
・つながり:8
・市場での活動:10
・知識:4
・人材:9
まとめ
本記事では、グローバル・スタートアップ・エコシステムのランキングについて解説しました。国ごとではなく、エコシステム単位で情報を収集して判断することで、海外スタートアップの情勢をより詳細かつ正確に理解することが可能になります。海外進出や海外スタートアップとの協働をお考えの企業様には、進出先や協働相手の拠点について熟知することでよりよいご判断の一助となると存じます。
こちらで、「グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポート」(GSER)に掲載されている全ランキングの日本語版を用意しております。こちらのファイルには、東京も含めた上位30のエコシステムがすべて掲載されております。ご興味をおもちいただけましたら、フォームよりお気軽にお問い合わせください。