世界各国のサステナブルな取り組みを評価・分析するSustainable Development Report(前編)
Sustainable Development Reportは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、国連加盟国の進捗状況を評価・確認するための研究レポートです。2021年版には、Covid-19からの回復とSDGs達成への10年間の行動についての分析、各国の取り組みを評価したランキングが掲載されています。
目次
Sustainable Development Reportとは?
Sustainable Development Reportは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、国連加盟国の進捗状況を評価・確認するための研究レポートです。
政府や市民はレポートを活用することで、行動に優先順位をつけ、実行する上での主要課題を理解し、2030年の目標達成のために埋めるべきギャップを特定することができます。
第7版となる2021年版には、各国のSDGsの17目標における取り組みを評価したランキングに加えて、Covid-19からの回復とSDGs達成のための10年間の行動についての分析が掲載されています。
発行元
Sustainable Development Reportを作成しているのは、SDGsとパリ協定の実行のために実用的なソリューションを提供するSustainable Development Solutions Networtk(SDSN)です。SDSNには科学技術の専門的知見が集められ、都市や気候・エネルギー、資源採掘、健康、食料などのテーマについて研究や政策作成などを行なっています。
著者
レポートの著者は5人ですが、ここでは、SDSNの所長でもあるジェフリー・サックス氏のみご紹介します。
ジェフリー・サックス氏は、世界的に有名な経済学者であると同時に、「貧困の終焉: 2025年までに世界を変える」や「地球全体を幸福にする経済学ー過密化する世界とグローバルゴール」などの著作があるベストセラー作家です。
TIME誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に2度選出され、「世界でもっとも有名な経済学者」とも呼ばれました。国連では、国連事務総長アントニオ・グテーレス氏のSDGs特別顧問などを務めています。
エグゼクティブサマリー
本記事では、レポート冒頭のエグゼクティブサマリーから抜粋した内容をご紹介します。
各国のランキングは次の記事でご紹介しています。
パンデミックの影響
Covid-19のパンデミックによって、各地でSDGsの進捗が後退しました。SDSNではSDG Index Scoreという指標を用いて進捗状況を評価していますが、前年度よりもスコアが低くなったのはSDGsが採択された2015年以来初めてのことでした。
スコアの低下は、パンデミックによって増加した貧困率と失業率が主な原因だと考えられます。しかし、統計データの処理におけるタイムラグのため、2021年版にはいくつかの指標データが反映されておらず、実際にはさらにスコアが下がる可能性があります。
パンデミックは、経済・社会・環境のSDGsを構成するすべての面に影響を及ぼしました。この事態が続く限りSDGsの進捗もないため、各国はワクチンへのアクセスと公衆衛生上の対策を通して、パンデミックの抑制を引き続き最優先課題とする必要があります。
低所得国の状況と解決策
低所得の開発途上国は、パンデミックから復興するための財政的余裕が十分ではありません。高所得国の政府は、対策のために市場から多額の借り入れを実施することができましたが、低所得国では市場の信用度が低く借り入れを行なうことができませんでした。
低所得国の財政的な問題を解決するためには、グローバルな金融管理や、低所得国の市場の流動性の向上に加え、徴税の改善、国際開発金融機関(MDBs)による金融仲介の強化、債務救済が必要です。
パンデミック以前のSDGsにおける進捗
パンデミックによる後退はあったものの、それ以前にはSDGsにおいて大きな進捗が見られていました。特に顕著な成果が現れていた地域は、東アジアと南アジアです。国レベルでは、バングラデシュ、コートジボワール、アフガニスタンが最も進歩していました。
パンデミック以外のグローバル課題
気候変動や生物多様性の危機など、パンデミック以外にも切迫したグローバル課題があり、そのために多国間の連携が必要です。
生態系や自然への被害が拡大すると、新しい感染症が発生する危険性があります。次に起こる感染症はさらに致死率が高いものになることも考えられます。また、気候変動はすでに、干ばつ、台風、海水面の上昇、熱波などの自然災害の急激な増加を引き起こしています。
そして、インターネットの普及によって多くのサプライチェーンがオンラインに移行した結果、広範囲なサイバー攻撃のリスクも高まりました。
このような世界的な課題には単独の国家では対応できないため、多国間の連携をさらに強化していくことが必要です。
豊かな国々が生む負の影響
フィンランド、スウェーデン、デンマークの北欧諸国は、Sustainable Development Rreportのランキングでトップに立っていますが、これらの国でさえSDGs達成のために大きな課題に直面しています。
豊かな国々は、持続不可能な貿易やサプライチェーンによって、社会経済および環境に負の影響を波及させる可能性があります。また、裕福な国々におけるタックスヘイブンや利益のシフトは、他国がSDGs達成のために資金を集めるのを阻害することにつながります。
国民皆保険とデジタルインフラ
パンデミックによって、社会保障としての国民皆保険と主要なインフラストラクチャのデジタル化の必要性が明確になりました。
Covid-19によって、効果的な社会保障制度と国民皆保険を持つ国が、このような危機にはもっとも上手く対応できることが明らかになりました。これら制度は費用も低く抑えることができることから、SDGsでは各国に社会的なセーフティーネットの充実を訴えてきたのです。
また、ロックダウンの期間には、デジタルテクノロジーが、社会的サービスや教育、ヘルスケアを受けたり、支払いをしたりするうえで重要な役割を果たしました。オンラインを活用したテレワークを行う場合も、デジタルテクノロジーは必要不可欠なものです。
統計の改善
SDGsの進捗状況をチェックするには、確実でタイムリーなデータが必要です。効果的な対策を講じ、人々の命を救うために、細分化されたタイムリーな情報が大きな価値を持つことがパンデミックによって示されました。
SDGsの採択から5年が経過した2020年においても、各国の公式統計にはかなりのギャップが残っています。特に、「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「つくる責任、つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊さを守ろう」の5項目において大きなギャップがあります。
2015年以降、世界の統計パフォーマンス指標は改善していますが、多くの低所得国や小島嶼(しょうとうしょ)開発途上国においてはさらなる投資が必要です。
まとめ
本記事では、Sustainable Development Reportの概要とサマリーをご紹介しました。世界的にも信用度の高い第三者機関によるレポートを確認することで、日本を含む各国が持続可能性にどのように取り組んでいるかについての理解が深まると考えられます。
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